木製ドアについて

新しく開発された木製防火ドア

 

はじめに

建設省(現、国土交通省)は、新しい防・耐火性能評価システムの確立を目指す総合技術開発プロジェクト「防・耐火性能評価技術の開発」を平成5年度からスタートさせています。

その大きな目的は、建築物の種類や部位によって使用すべき材料・工法を規定している原稿の「仕様書」的な防・耐火規格を、一定の性能レベルを確保することができれば、比較的自由に新しい材料・工法の使用を認める「性能規定」に転換することにあります。

建築基準の「仕様書規定」から「性能規定」への転換は、構造・強度の分野でも平成7年度から始められています。このような変化は、「防火戸」の試験方法・評価方法の改正がその端緒となっています。

規格が改正されるまでに認められていた防火戸は、鋼製ドア、銅製シャッター、アルミサッシなどに限定されていました。防火戸には乙種と甲種の2種類がありますが、60分間の性能が要求される甲種防火戸については、建築基準法施工例に4タイプの仕様が定められているだけで、新たな構造、仕様を認めるための試験方法、基準もありませんでした。また、乙種防火戸であっても、試験体からの発炎が許されていなかったため、木質系の材料を用いた防火ドア、防火窓は認められていませんでした。このような状況が、平成2年度に防火戸の規格が改正されたことにより一変し、熱や炎を一定時間遮ることができれば、部材が可燃性であっても防火戸として認められることになりました。

木製防火ドアは、従来用いられてきた鋼製防火ドアよりも遮音性が高く、また火災時にも燃焼面と反対側の表面温度が低く保たれるため、避難時の安全性が高いなどの特徴を持っています。このため、規格改正後鋼製防火ドアメーカーを中心に新しい防火ドアが開発・市販されてきました。1995年末までに、甲種防火ドア、乙種防火ドアともそれぞれ200種類程度の製品が認定されています。また、道内の企業でもこれまでに甲種防火ドア認定を1社が、乙種木製防火ドア認定を2グループ6社が得ていることは本誌(1995年11月号)で紹介したとおりです。

ここでは、旭川市の家具・建具メーカーが共同した開発に取り組んだ乙種防火ドアについて紹介します。これは、(株)旭川産業高度化センター、(株)いさみや、(株)近藤工芸、市川木製品工業(株)、太陽工業(有)および井上建具工業(株)が平成5年度に開発をすすめたもので、林産試験場は部材の耐火加熱試験及び防火ドアの予備試験を行いました。

開発された防火ドアは、鏡板と框(かまち)とを組み合わせる落とし込みタイプ、モールで意匠性を高めたタイプ、及び難燃処理木材を使用せず素材の耐火性能を組み合わせて防火基準を満足させたモールタイプの3種類となります。また、これらのドアの特徴は、けい酸カルシウム板やロックウールなどの無機系材料を一切用いず、主要構成部材を全て木質系材料としたことです。

 

ジョイント部の弱点をカバーするには

図1 落とし込みタイプのドア

鏡板が框材にのみ込まれる図1のような落とし込みタイプのドアは、ムクの木材の質感をよくアピールするため、防火ドア以外では一般的に製造・市販されています。しかし、防火ドアとしては、ジョイント部分の板厚が薄くなるため、燃え抜け及び衝撃試験による部材の変形・脱落の危険性が高くなります。このようなジョイント部からの燃え抜けを防ぐ方法としては、できるだけ比重の重い木材を用いること、部材を難燃処理すること、鏡板のしゃくり深さを浅くすることなどが考えられます。

そこで、鏡板のしゃくり深さと鏡板の框材間に挿入する発泡材料の幅を変えた400×400×45mmのタモ材のパネル試験体3枚と、難燃処理を変えた900×900mmのドア試験体2体について防火加熱試験を行い、それぞれ燃え抜け防止効果を調べました。

図2 落とし込みタイプドアの部材試験体

試験体の概要及び耐火試験結果を図2および表1に示します。鏡板のしゃくり深さが7、10、13mmの場合、ドア厚が45mmであるため框材にのみ込まれる部材の最小厚さはそれぞれ31、25、19mmとなります。

しゃくり深さを13mmとしたパネル1の場合、加熱後に鏡板と框材とが分離し、衝撃試験での破壊が予想される結果となりました。また、幅25mmの発泡剤を挿入したパネル3は、加熱中に鏡板と框剤とが分離しました。これは、発泡剤の発砲力が強すぎたものと考えられます。このような結果から、しゃくり深さを10mm、鏡板の最小厚さを25mm鏡板と框剤との間に挿入する発泡剤の幅を22mmとしたドア試験体を試作しました。

難燃処理した鏡板を用いたドア1試験体では、未炭化層も厚く防火ドアの規格を満足することが示されました。写真1は、20分間の加熱が終了し、衝撃試験を行った後の非加熱面側の様子です。ノブ付近が一部変色している以外、外観の変化はありません。これに対し、難燃処理していない鏡板を用いたドア2試験体の場合、部材の変形・収縮によって鏡板と框剤とがはく離し、衝撃試験に耐えられず鏡板が脱落しました。

写真2は、衝撃試験によって、左コーナー部から燃え抜けた状態です。

 

認定された防火ドア

防火ドアは、(財)日本住宅・木材技術センターや(財)建材試験センターなどの指定試験期間でその防火性能を確認し、(財)日本建築センターで防火性能の評定を受けた後に、建設大臣の認定が得られます。今回、認定を受けた防火ドアは図3に示す3タイプです。

タイプ1は鏡板と框材とを組み合わせる落とし込みのドアで、鏡板のしゃくり深さは10mmとなっています。また、鏡板には難燃パーティクルボードを用いると共に、鏡板と框材のかんごう部に発泡剤を配置して燃え抜けを防ぐ仕様となっています。

タイプ2はパーティクルボードと難燃合板とを積層して鏡板の燃え抜けを防ぎ、框材に付加した合板とモールなどの加飾とによってデザインに変化を与える仕様です。

タイプ3は3枚のパーティクルボードと合板を積層して鏡板の燃え抜けを防ぎ、加飾はモールの付加のみとなります。難燃処理材を使用していないことから、もっとも安価・簡易に製作できる仕様となっています。

これらのドアは認定試験の結果、いずれも乙種防火ドアの基準をすべて満足し、さらにまた非加熱面の最高温度は30℃程度で遮熱性にも極めて優れていることが確認されました。(財)日本建築センターの評定は平成6年11月に完了し、防火戸第1600、1601、1602号として認定されました。写真3は、認定された落とし込みタイプ防火ドアの1例です。

木製防火ドアは、アパートやマンションなどの集合住宅の玄関ドア、ホテルやオフィスなどの出入り口のドアを主な対象として普及・定着してきています。今回開発された木製防火ドアも、その材質感をアピールし、普及することを期待します。

 

 

北海道立林産試験場 菊池伸一 著
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